竹村りゑの物語の宅配便 vol.5 最終回 香りの本
竹村りゑの物語の宅配便 vol.5 最終回 香りの本
『透明な夜の香り』千早茜 著(集英社)
【撮影協力】ホホホ座金沢
味の好み以上に、香りの好みには個性が表れる気がします。 だからこそ、気に入った香りに出会えたときは嬉しいもの。ただ、私が好きな香水は重厚でクセ強めの普段使いには向かないタイプなので、使う場面に悩むことも多いです。悩んだ末に思いついたのが、栞に香り付けをすること。読みかけのページを開くとふわっと香りが漂うと同時に、嗅覚と一緒に脳も活性するのか、ぐっと集中力が増す気がして気に入っています。 本と香りって相性がいいのかも、と思った時に浮かんだのが、今回ご紹介する『透明な夜の香り』です。あらゆるものの香りを判別し再現することのできる天才調香師と、それぞれの事情を抱えて訪れる奇妙な依頼人たち。亡くなった夫の匂いや、自らが死期を迎える前の最後の香りなど、物語の中で「香り」は過去や執着の象徴として扱われ、ちょっとぞくっとさせる美しさのある本なのです。タイトルの通り、秋の静かな夜によく似合う一冊です。 さて、半年近くお付き合いいただいてきた「物語の宅配便」も今回で最終回です。皆さんの毎日の生活の中に、ちょっと特別な物語をお届けできていたなら嬉しいです。良き人生が良き物語とともにありますように。ありがとうございました!