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旬の食材と誇り高き人たちからパワーをもらえる場所。

旬が行き交う市場で暮らしの文化に触れる
訪れたのは4月半ば。市場は春の陽気に満ちていました。「山菜そろってるよー!今晩天ぷらなんてどう?」「今日はサゴシが大漁や、安いぞ~」。あちこちから飛び交う声に笑顔で応えていく谷口直子さんは、料理教室やレシピ開発など、金沢の食を中心に事業を展開する料理研究家です。インバウンド向け文化体験施設『IN KANAZAWA HOUSE』の運営にも携わり、近江町市場のツアーガイドとしても活躍。市場の連携事業では「親子おみちょ体験」の講師も務める、いわば市場の中と外をつなぐ存在です。
近江町市場は石川の旬を身体で感じられる場所。「旬の食材ってパワーがあるでしょ?」と筍を手に取り、郷土の食べ方を教えてくれました。「筍はワカメと一緒に炊く若竹煮が多いけど、金沢は昆布と炊くの。北前船で昆布が運ばれてきた歴史から根付いた文化で、この時期の昆布屋さんには『竹の子昆布』という商品も並ぶのよ」。市場を見ればその町の生活文化が見えるとは、まさにこのこと。

自宅のキッチンスタジオにて。料理教室では生徒に合わせて、郷土料理から多国籍料理まで多彩なメニューを提案する

うなぎの名店『みやむら』では、裏で串打ち中のご主人に声をかけ、生きたドジョウを見学

場内最古の店舗『ヤマカ水産』でおすすめの調理法を聞く谷口さん。食材のことは市場の人に聞くのが鉄則
時代と共に変わりゆく風景と変わらぬ店の誇り
北陸新幹線の開業から11年、今や観光地の代表格となった近江町市場。「様々な見方をされることもあるけれど、観光の方が増えるのを敬遠しないでほしい。この価値ある食文化の発信地が持続していくために大切なこと。お店の方はいろんなお客様に楽しんでいただけるよう、多くの工夫をしているんです」と谷口さん。
場内には鮮魚店や青果店など同業の店も多くありますが、どの店もそれぞれに哲学や信念を持っています。「例えば、加賀野菜のレンコンひとつとっても産地や生産者さんに違いがあり、皆が『うちのレンコンが一番!』とプライドを持って売っている。品揃えや並べ方、飲食店向けか小売中心かなど、ひと口に八百屋さんといってもいろいろなのよ」と微笑みます。その違いを楽しみ、見定めていくのも日々市場を利用できる地域住民の特権です。「市場は通ってなんぼ。そして会話をすることが大事。そのうち自分に合った『この食材ならこの店』が分かってくるのよ」と話します。スーパーの便利さとはまた異なる、血の通った買い物のあり方がここにはあります。
今年の収穫量や調理法、魚屋さんの趣味の釣りに豆腐屋さんの美容法…。どの店に行っても谷口さんの会話はとどまることを知りません。コロナ禍にはその対人スキルを活かし、場内の店を巻き込んで通販サイト「イチバのハコ」を立ち上げました。市場の活気づけにと始めた事業でしたが、改めて「石川県産」のブランド価値を実感したといいます。300年以上の歴史を持つ近江町市場。時代とともに姿を変えながらも、根本にあるものは変わりません。にぎやかな掛け声の奥には、土地の記憶や人の営みが幾重にも重なっています。季節を繰り返す中で交わされるやりとりが、この場所を暮らしと文化が息づく「町」にしているのです。