29 金沢学院大学附属高等学校 芸術デザインコース
建物が変わっても、そこで働く人は変わらない

「自分の作品とは何?」問い続けて辿り着いた場所
金沢学院大学附属高校で教鞭を振るう美術教師で、今年から教頭という立場で教育現場に関わっている青木良識さん。実は、近江町市場を描き続けている画家でもあります。毎年数点の作品を描き、日展を中心に活動されています。20歳から近江町市場をモチーフに作品づくりを続け、四半世紀近くが過ぎました。描いてきた作品数は70点以上。近江町市場の何が、青木さんを惹きつけるのでしょうか。
青木さんが本格的に絵を描き始めた高校時代に、金沢学院大学芸術学部新設に伴い教授に就任した、洋画家の村田省蔵さんに出会います。絵に没頭する村田氏の姿に強く惹かれ、同校へ進学。青木さんが風景画制作に打ち込んでいたある日、公募への出展機会を得ます。海外の風景を描こうかと考えましたが、師から「自分の経験が入らないと作品にならない」との指摘。モチーフが見つからず、締切も迫ってきたとき、ふと近江町市場が頭に浮かびました。金沢市入江で生まれた青木さんは、両親と市場へ頻繁に通っていました。改めて足を運び気が付いたのは、煌びやかなライトの下で働く人。そこに生まれるお客さんとの活発なやり取り。その情景を見たとき「なんて綺麗なんだ」と思ったそうです。このときから市場へ通う日々が始まりました。

絵具や筆、美術書が所狭しと並ぶアトリエ。ここ2年ほどは生徒をモデルに人物画を描いていたが、今年は再び近江町市場を描く
見る世界が変わった瞬間市場の情景も新しい領域へ
モチーフを見つけた瞬間のワクワクは、公募後も描き続けるうちに徐々に苦悩へと変わっていきました。描きたい場面はいくつもある。しかし絵にしてみるとうまく再現できない。最初は見たままに黄色やオレンジ、赤、黒といった色を使っていましたが「自分のフィルターで再構築しなければ作品にならない」と考え続けます。15年ほどが経ち、転機が訪れました。
「その頃は、個人的に大変な出来事が重なった時期でした」と回想します。気を紛らわそうと子どもとおもちゃで遊んでいるとき、新しい色彩が目に飛び込んできました。幼児用の玩具は、日用品と比べ色が豊か。それらを見ているうち「もっと自由な色で世界を見られないか」と思いました。その目で改めて近江町市場を捉えると、躍動する色彩の中に活発に働く人々の姿がありました。それを境に、今まで使ってこなかった鮮やかな色を用いて市場を表現するようになっていきます。

人物の陰影やシックな黄色が際立つ色彩が、鮮やかなパステルカラーへ変化


キャンバスへ向かう前に描いた、近江町市場のスケッチの数々。カニや市場で働く人の姿が生き生きと描かれている
再開発で変わり続けても、そこで働く人は変わらない
「近江町市場の魅力は、働く人たちのエネルギー」と青木さん。通い続けるうち感じたのは、「この場所が好き」という彼らの思いです。働く人と買い物に足を運ぶ人、観光で訪れる人。様々な人が集まり、市場の中を熱い血液のように流れていく。近江町市場は再開発を経て姿を変えていますが、「そこで働く人の姿は変わらない」と青木さんは話します。
今年もまた、出展に向けて近江町市場の絵を描いています。「筆を取るときはいつも不安」と青木さんは笑います。それでも、惹きつけられて市場へ足を向ける。描き尽くせない魅力が、青木さんには見えているのでしょう。