片町から近くて便利だけど静かで落ち着いている町

様々な人や文化が混ざり合う場所として

五線譜に音符が踊る外観に、マイクスタンドに手を添え歌う女性のシルエットが描かれた看板が目印。扉を開けて階段を少し下ると、暖かい照明のもと心地良い音楽が流れ、ゆったりとした雰囲気が広がっています。『もっきりや』は国内外様々なジャンルのミュージシャンが毎日のように訪れライブを繰り広げるライブハウスであり、コーヒーやお酒を嗜むことのできる人々の憩いの場でもあります。
　創業54年。店主の平賀正樹さんは東京の大学を中退し、21歳で帰郷して店を始めました。学生時代は「勉強をストライキして（笑）、新宿で芝居を見たり、仲間と映画や音楽について語ったりしていました」。若い頃から芝居や音楽、映画や本といった文化に親しんできた平賀さん。喫茶店やカフェ、バーなど業態や用途が細分化されている現在と比べて「昔はコーヒーも出せばお酒も出すといったようなお店が多かった。似たような話で、最近は音楽好きや本好きなどそれぞれ集う場所が分かれていますが、昔は芝居や音楽、映画について語る場所も、今より混ざり合っていたような気がします。交わらないとわからないものってありますから」。『もっきりや』が喫茶店＆ライブハウスを名乗り続ける所以です。

コーヒーは『コクテール堂』の「オールド５ブレンド」を使用。酸味がなく、深い苦味としっかりとした味わいが特徴。

「昔のことはあまりよく覚えていないんだけど」と言いつつも、一つずつ言葉を選びながら語ってくれました。

イラストレーター・和田誠とかつてシネモンド支配人を勤めた北中良枝のデュエット（『もっきりや』提供）

ミュージシャンからのライブ依頼が絶えない店

　ライブは多い月で30ほど。店の奥には世界三大ピアノの一つである「ベーゼンドルファー」のグランドピアノが鎮座し、音響も完備。また、集客のための宣伝も怠りません。その上で、ミュージシャンに対しては「自分の好きなようにしてください」と伝えているのだと言います。
　やりがいは「今日は音が良いなと思う瞬間。例えば先日の六角精児さんのライブは、一曲目からすごく良かったですね」。ミュージシャンが満足できるよう良い音を出せる環境を整え、できる限りお客さんを入れることに注力する。長年築き上げてきた信頼や評判から、ミュージシャン側からのライブ依頼が絶えないというのも納得です。

壁一面に１千枚以上あるレコードが壁一面ずらりと並んでいます。

本や芝居、映画、音楽それらのおかげで自分がある

店内の壁にはレコードがずらりと並び、カウンターには本が無造作に積み上げられています。文化の匂いを感じながらそれらの魅力について訊ねてみると「人間の世界から本や音楽、お芝居、映画を引いたら何が残るのでしょうか」という答えが返ってきました。「それらがあったからこそ自分がつくられ、また、人を好きになったりかっこよくなりたいと、憧れたりするんじゃないですかね」。
　もうすぐ喜寿を迎える現在も大好きなものたちに囲まれて、時には日本各地をバイクや鉄道で旅する。穏やかに半生を語る平賀さんの姿に、人生の豊かさとは何かを教わったような気がします。