31 うどんそば松本
五十代になってからが、一番仕事が楽しいんです

大手チェーンが増えるにつれなくなっていった町の店
「昔の中央通りには、青果店や精肉店、菓子店など色んなお店がありました」そう話すのは、『うどんそば松本』の先代の妻である松本邦さんです。『まつもと食堂』として食堂を営んでいた三代目の元へ嫁いできました。
店の歴史は長く、『松本商店』という名の氷販売店として誕生した、創業115年の老舗。邦さんは63年前に嫁いできてからずっと、この町の移り変わりを見てきました。町の活気が失われていったのは、スーパーやコンビニなど大手チェーンの小売店が増えてきた頃と重なります。廃業する店が増え、2010年頃が最も寂しい時期だったそうです。

『松本商店』としてオープンした頃の写真。懐かしい岡持ちの写真が、この店の歴史を感じさせる

跡を継いで売り上げが落ち込んだ際、師匠が励ましてくれた手紙。今でも大切に保管しているそう
母と師匠の支えにより乗り越えられた辛い時期
息子の規市さんもまた、この中央通りで生まれ育ちました。東京のうどん店へ修業に出た先で、お世話になった師匠が蕎麦割烹の店を新しくオープン。誘いを受けて店を移り、手打ち蕎麦と割烹仕込みの料理を3年かけて習得しました。
27歳で帰郷し店の跡を継いだとき、それまでの食堂から手打ち蕎麦と一品料理の店へ業態を変えることに。しかし最初は苦戦したと話します。「常連さんからは不満も出ました。店を継いで3年は、売上がそれまでの4分の1ほどにまで激減。さすがに不安になりましたね」。
苦境の中でも母の邦さんは、「人は一代。次に継いだ者が、その時代に合わせるのがいい」と支持。また、事情を知った師匠から手紙も届きました。30年以上も大切にしているその手紙には、「辛い状況でも良いものを出せば、必ず将来へつながる」と励ましの言葉が綴ってあります。その言葉を支えに料理と向き合っているうち、今のスタイルが徐々に浸透し、店も受け入れられていったのです。

手打ち蕎麦には、粗挽き粉をブレンド。「そば豆腐揚出定食」(1,900円)をはじめ、定番から創作メニューまでがずらり
還暦間近の仕事に充実感創作メニューも次々と誕生
同店の歴史の背景には、ある系譜がありました。初代が技術を学んだ老舗食堂『加登長』。そして、実は邦さんの実家の家業は老舗食堂の『お多福』です。金沢の二大食堂のノウハウが息づいていた前身店舗からは支店も誕生。今も人気の『まつもと食堂』がその流れをくむ店です。金沢の食堂文化の歴史が凝縮されたようなこの場所には、幅広い人に愛されるパワーがあるのかもしれません。
割烹仕込みの蕎麦店となった今では、飲食業界のレジェンドから若手シェフまでが通う店になりました。邦さんはそれを「息子が基礎をしっかりと学んできたことを、皆さんが分かってくれているのかもしれない」と微笑みます。
還暦が近づいた規市さんは、「50代に入ってからが、一番仕事が楽しい」と話します。朝7時半から毎日欠かさず蕎麦を打ち、小鉢には新しい創作メニューを取り入れています。「身につけてきた技術をすべて使い切りたい」と言い、そのスキルを受け継いでくれる見習いの調理師も募集中です。
中央通りにも新しい店が増えてきました。100年以上この町を見守ってきた一軒は、これからも蕎麦の香りとともに、静かに暖簾を掲げ続けていきます。
うどんそば松本
店舗情報
- 店名
- うどんそば松本
- 住所
- 金沢市中央通町18-23
- 電話番号
- 076-231-0507
- 営業時間
- 11:30~14:30(14:15L.O.)、
17:00~21:00(20:30L.O.)
※水曜と第2日曜は昼のみ営業
- 定休日
- 日曜日