18 広坂ハイボール
〝いい町〟に似合う、そんなバーでありたい

バーのカウンターは、毎晩ちがう舞台になる
夜になると明かりが灯る、柿木畠のジャズ喫茶の2階。扉を開けるとカウンターで明るい笑顔が出迎えてくれます。創業36年のバー『広坂ハイボール』のオーナーであり、柿木畠の名物バーテンダー・宮川元氣さんです。今は白ジャケットの似合う宮川さんですが、実は意外な経歴があります。遡ること高校時代。若き宮川さんが魅了されたのは、芝居でした。演劇部に所属し、青春は芝居一色。卒業後に上京し、小劇場の舞台に立ったり劇団を立ち上げたりと、本格的に役者活動を行っていました。「同じ舞台は二度とない。バーも一緒。同じことをしているようで違うんです」。一見か常連か、どんな料理を食べてきたか、その日の天気や気温、相手の気分や疲れ具合…その場の全てを見て取り、ベストなお酒を作る宮川さん。それが例え同じウイスキーを使ったハイボールであっても、違う一杯になるのだそうです。
ハイボールを店の中心に据えたのは、神戸の今はなき伝説のバー『コウベハイボール』との出会いがきっかけでした。氷を入れず、サントリーホワイトのハイボールだけを出すその店の潔さに心を打たれたといいます。「シンプルなのに、すべてが計算され尽くしていた。自分もそんなお酒を出す店にしたいと思ったんです」。その思いは36年たった今も変わりません。多くの弟子を世に輩出してきた宮川さんは、「舞台もバーも同じで、カウンターはいつもライブ。バーテンダーがお酒を出す動きは、決して〝作業〟であってはいけないんです」と、自身の姿勢を持って後進に伝えています。

宮川さんと修業中のスタッフ・多田ひかるさん。「この店のハイボールは別格。あまりの美味しさに感動して働き始めました」と多田さん。
すべての経験が一杯のハイボールに還る
現在、バーテンダー以外にも、茶道家やYouTuberの顔も持つ宮川さんですが、「演劇の経験も、YouTubeも、茶道も、全部バーの仕事に生きている」と話します。演劇で身につけた〝言葉を届ける力〟はお客様との会話や発信の説得力に、茶道で学んだ〝最高の一服の整え方〟はベストな一杯を提供するまでの備えに重なります。
柿木畠の顔役でもあり、近年続々と増える若い店主の店にも気を配る宮川さん。「新しい店の子に『この町どう?』って聞くと、居心地がよくて来て良かったと言ってくれる。今の柿木畠、すごくいいですよ」と嬉しそう。古くは学生街だったこのエリアも、今はすっかり大人が集う町に。そのタイミングで店側が若返りを図っており、動きがあることを町の人たちも喜んでいるようです。「バーはなくても困らないけど、あると生活が潤う場所。だから〝いい町にはいいバーがある〟とも言われるんです」と宮川さん。『広坂ハイボール』を見ていると、バーを町のバロメーターとして考えるのも、あながち間違いではないように思えます。

この店の定番で一番人気の「ヒロサカハイボール」(1,100円)に使われているのは、居酒屋でも扱われる「デュワーズ ホワイト・ラベル」。多田さんを感動させたのもこの味。

人生を変えたお酒だという、樽出しの「ラガヴーリン12年」を使ったハイボール(2,090円)。既に熟成された原酒をミニ樽で自家追熟させたもの。30年前、悩みに悩んで購入した樽は継ぎ足しながら大切に使われている。
広坂ハイボール
店舗情報
- 店名
- 広坂ハイボール
- 住所
- 金沢市柿木畠4-9 2F
- 電話番号
- 076-265-7474
- 営業時間
- 18:00~24:00
- 定休日
- 月曜、隔週火曜
- @genkimiyakawa