33 照葉
本来は観光地ではなく茶屋街。文化を残せるように恩返ししたい

大手チェーンが増えるにつれなくなっていった町の店
ひがし茶屋街でワインバー『照葉』を営む吉川弥栄子さんは、かつて金沢の人気芸妓として活躍した一人。現在はお茶屋『藤乃弥』の女将でもあり、芸妓を育てながら、二足の草鞋を履いています。
1998年、出産を機に芸妓を続けることは難しいと考え『照葉』を開いた吉川さん。それから15年が経ち、お茶屋経営の話が舞い込みます。『照葉』の離れとして事業展開を考えていた元お茶屋の建物について、ひがし茶屋街の女将衆から「この場所はお茶屋としてやってもらえないか」と声をかけられました。お茶屋の経営は、元芸妓か女将の家系にある人に限られます。しかし、花街の仕事やしきたりを知らなければ運営は難しい。「花街の文化を守るためにはお茶屋さんを減らさないようにする必要があります。でも今の芸妓さんが女将の大変さを見て、なりたいと思えるかどうか」と茶屋街の今後を案じる吉川さん。
お茶屋はお座敷を受けるだけでなく、芸妓の予定を管理し、花代を立て替え、新花を育てるための支度も担aいます。着物やかつらなど、芸妓一人をデビューさせるために必要なのは最低300万円。それらの負担からお茶屋が減れば、芸妓も生き残れません。だからこそ吉川さんは「芸妓になりたい若者が自ら資金を借りられる制度や、新花でも実入りのよい状態をつくれる仕組みなど、時代に合った環境も必要」と考えています。
19歳でこの世界に入り、育ててもらったからこそ、「自分がしてもらった分を、この世界にお返ししたい」と話す吉川さん。仕組みづくりの一歩になればと、お座敷がない時間帯は観光協会の体験プログラムにも協力しています。
今年は『藤乃弥』から新花も誕生。現役の芸妓に憧れ、「『藤乃弥』の芸妓になりたい」とやってきた若い力です。少しでも花街の活気につながればと、茶屋街で二つの顔を持つ女将として、日々できることを着実に積み重ねています。

『照葉』の店内には、東京2020オリンピックの聖火リレーで使ったトーチや、メドックマラソンのポスターなども。その時の経験談を聞きながらバータイムを過ごすのも楽しそう。

吉川さんの芸妓時代の写真。金沢No.1人気と言われるほど多忙な芸妓時代だったとか。
仕事だけが人生じゃない好奇心の赴くまま、どこへでも
とはいえ「人生は仕事だけではない」とも強調します。長年登山を愛し、マッターホルンにも登るほどの実力者。熱心なランナーでもあり、オリンピックの聖火ランナーも務めた他、フランスのメドックマラソンにも挑戦しています。他にも、市民農園で野菜を育て、能登の祭りにボランティアとして足を運ぶ。神社仏閣巡りや図書館通いまで。「仕事をしてる場合じゃないほど、行きたい場所がある」と笑うその好奇心は、留まるところを知りません。吉川さんの興味の幅と経験は、芸妓の世界で養われた知性と品格に人間の深みを加えているようです。趣味の話をする吉川さんは、どこかチャーミング。『照葉』を訪れる人々も、女将としての凛とした佇まいと、ふと垣間見える素顔に惹かれるのかもしれません。
花街の文化を守るために尽くしながら、自分の人生もまた、好奇心の赴くままに。伝統の世界に生きる吉川さんの軽やかな生き方そのものが、この町に新しい風を吹き込んでいます。

ワインコーディネーターや唎酒師の資格も持つ吉川さん。
照葉
店舗情報
- 店名
- 照葉
- 住所
- 金沢市東山1-24-7
- 電話番号
- 076-253-3791
- 営業時間
- 19:00~24:00(23:00L.O.)
※予約制
- 定休日
- 日曜、祝日