35 くわな湯
私にとってこのまちは、何にも変わらんよ

浅野川沿いで地元民に親しまれるレトロ銭湯
午後1時、浅野川沿いの銭湯『くわな湯』の営業が始まると、待っていましたとばかりに次々と常連客がのれんを潜ります。その番台で朗らかな笑顔を見せるのが、福島朝子さんです。「あさちゃん、元気しとる?」「こんにちは、あさこさん」「お姉さん、今日はいい天気やね」。親しみを込めて声を掛けられる朝子さんは御年91歳。昭和、平成、令和と、東山の日常を見守り続けてきました。
昭和2年に創業した『くわな湯』を朝子さんが継いだのは、まだ10代の頃。学校に通いながら銭湯の仕事もしていました。「馬場小学校のあとは、小将町中学校、桜丘高校って通ったけど、銭湯のこともせんなんでしょ。学校に行けない日もあったけど、先生がすごくよくしてくれて」と中高生時代を振り返る朝子さん。学校では勉強が好きで、筆で竹の絵を描くことも好きだったといいます。「作品を学校に飾ってもらって嬉しかった」と、当時の思い出を楽しそうに話します。銭湯の仕事と学業、大変なこともあったはずですが、苦労を尋ねると返ってきたのは意外な答えでした。「何も苦労って思わなんね。私、声大きいでしょ?喋るのも好きやさけ、ワーワー言うてたらみんなが助けてくれてね。ここに毎日来てくれてお喋りするのが好きでね、苦労って思わなんだ」と、にこやかに話します。「東山が好き」という気持ちは昔も今も変わらず、これまで他の仕事をすることや東山を出ることは一度も考えたことがなかったといいます。

風呂上りにくわな湯から出ると見えるのは浅野川と主計町の風景。風が心地よく、昔から変わらない風情漂う景色に癒される
番台から見える東山は何年経っても変わらない
東山はかつての花街の面影を残しながらも、新たな店も増え、今では金沢を代表する観光地の一つになりました。レトロブームも相まって、県外から訪れる人や海外からの観光客が銭湯ののれんを潜ることもあります。それでも、朝子さんが番台から見ている風景は変わりません。「ずっとここ(番台)におって、お客さんだけ見とるから、なぁん変わらんね。毎日、心変わらんと来てもらっとるのが嬉しいし、元気な顔見ると嬉しいね。遠くからおいでて気持ち良かったよって言ってもらえるんも嬉しい」。毎日顔を見せる常連客も、遠くから訪れる客も、朝子さんにとってはみんな、大切なお客さんです。番台で交わされる何気ない会話の一つひとつが、日々の楽しみになっています。
創業99周年を迎えたくわな湯。光明石を使った柔らかな湯を求めて、今日もさまざまな人が訪れます。町の景色が変わっても、番台から見える人の顔や、交わされる言葉は、今日も変わらない。朝子さんは今日も、いつもの場所で客を迎えています。

美術教員の家族がデザインしたオリジナルTシャツ。「987(くわな)」の数字と朝子さんが描かれたデザインが一番人気。

たくさんののれんを所有し、季節や行事に合わせて替えるそう。写真は付近の園児らがお泊まり保育で訪れたときのもの

光明石ミネラル湯で疲労回復や冷え症に良いとされる。薬湯、スチームサウナも楽しめる
くわな湯
店舗情報
- 店名
- くわな湯
- 住所
- 金沢市東山3-1-5
- 電話番号
- 076-252-2659
- 営業時間
- 13:00~23:00
- 定休日
- 月曜
- 入浴料
- 大人(12歳以上)500円
- @kaicyan_kuwanayu